2015年3月8日日曜日

2015年3月6日(金)の日記

泊まりに来たものの絶望的に機嫌が悪い彼女に一刻も早く寝て欲しくて、牛乳を飲ませて部屋を暗くして布団を何枚も掛けて二十分置いたところスースー寝息を立て始めた。
戸棚を漁ったら前にハイボール用に買っておいたウイスキーがあった。割るものが何もなかったのでコップに四センチくらい注いでそのまま一口飲んだら喉がカッと熱くなって頭がくらくらした。机の上にあった彼女の飲み残しの牛乳を足したらずいぶん飲みやすくなった。
私はあんまりお酒に強くない。昔は結構飲めたけど、大学時代に飲み過ぎて腎炎になって以来、あんまり飲めなくなった。

飲めなくなった日のことはよく覚えてる。
たしか夏で、自分の家から五駅くらいのところにある繁華街でMIXイベント(※ ゲイもレズもストレートも参加可能、オープンなパーティー)が開催されると聞いて出掛けて行ったんだった。今でこそそういうイベントは大の苦手だけど、若かったからドキドキしながら会場に向かった。
どんなパーティーだったかは一切覚えてない。緊張し過ぎてブラックラムを12杯くらい飲んだことだけ覚えている。

気付いたら朝で、自宅の最寄り駅のホームのベンチで横になっていた。
直射日光に当たり続けた肌はひりひり痛み、身体中の関節が全部雑に削った竹にすげかえられたような気がした。腕も足も数センチ単位でしか動かなかった。

そこからどうにかして這うようにして自宅に帰って布団に横になったものの、背中が滅茶苦茶に痛くていっこうに眠れない。酔っ払って転んだのかなと思ったけど身体の内側から背中に向けて散弾銃で撃たれたんじゃないかと思うような痛みが二、三時間続いた。
これはいよいよ本当に危ないと思い、歩いて10分ほどの場所にある総合病院の緊急外来に行くことにした。部屋からマンションの集合玄関まで行くのに10分掛かったのでタクシーを呼んだ。

病院に着いて、迷惑そうに顔をしかめる気難しそうな40代の男性医師に問診を受けた。かなりきつく叱られ、視界がぐわんぐわん歪むのでうつむきながら耐えていた。
尋ねられるままにボソボソと症状を伝え、最後に
「妊娠してないよね?」
と訊かれ、顔を上げて
「いえ、ないと思います」
と答えた私の胸元を、先生が眉間に皺を寄せて眺めているのに気付いた。私は朦朧とした頭で自分の着ていた部屋着のTシャツの胸元を見た。

Tシャツの胸には浮かれたフォントで『I'm not fat. I'm pregnant(デブじゃないって、妊娠してんの)』とプリントされていた。
「違うんです」
そのあとのことはよく憶えていない。尿検査のあと点滴を打たれた気がする。

とにかくその日を境に少しずつ飲める量が減っていき、今ではウイスキーの牛乳割三杯で足腰が立たないからだになった。
件のTシャツは、友達が東南アジアに旅行するときに「これを着て行って」と渡して、それっきりだ。

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